明智光秀は信長から疎んじられて本能寺の変を起こした
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明智光秀名言集(日本外史・老人雑話)
吾が敵は本能寺に在り。
明智光秀(日本外史)
天正十年(1582) 6月2日未明、織田
信長を京都の本能寺に襲った明智光秀の、あまりにも有名な言葉である。
光秀が謀反を起こした、その心の内面を物語る言葉は他にもある。心の整理をするため、居城の丹波亀山城から愛宕山に登り、里村紹巴らを招いて連歌を興行した。
その発句で光秀は「ときは今あめが下知る五月哉」と詠んだ。なかなか意味深長な句である。素直に意味を取ると「梅岡の季節である今、雨が支配する五月である」となる。
ところが「とき」は土岐とも解釈できる。明智氏は美濃の名族・土岐氏の一族である。そうなると「土岐氏が今、天下を治める五月である」という意味になる。光秀が信長を葬って、天下取りを宣言した句ということになる。
また本能寺の変の直後、羽柴
秀吉と備中高松城で対峠する毛利氏の重鎮・小早川隆景に対し、光秀は書状を認めている。
そこには「光秀は、近年信長に対し、憤りをいだき、遺恨を押さえられず、今月二日、本能寺において、信長父子を諒し、思いを晴らすことができた」と、この謀反が、遺恨による憤りの結果であることを語る。この遺恨とは、信長が何かと光秀を嫌いだし、罵倒、さらには殴ることもあり、また領地替えも言い渡されていたことに発している。
「吾が敵は本能寺に在り」を織り込んで、光秀を吟じた詩が頼山陽にある。「本能寺、溝幾尺ぞ/吾大事を就すは今夕に在り/こうそう手に在り/併せて食ふ/四箸の梅雨天墨の知し/老阪西に去れば備中の道/鞭を揚げて束を指せば天猶は早し/吾が敵は正に本能寺に在り/敵は備中に在り、汝能く備えよ」
この詩は愛宕山の連歌の会に始まる。席上、光秀は紹巴に「本能寺の溝は深さ何尺か」と聞く。時にチマキが出されたが、思い悩む光秀は皮をむかず、皮ごと食べてしまう。
六月一日夜十時、一万三干の兵は松明をあかあかと灯して、ひさしを叩く激しい雨のなかを亀山城下を出て行く。老ノ坂の峠を越え、沓掛の分かれ道で全員食事を取る。西への道は備中。
だがここで光秀は信長公の検閲を受けるために都に入ると下知した。二日未明、馬に鞭をくれ東への道をとるが、日はまだ昇らず暗い。
「吾が敵は正に本能寺に在り」と、桂川の渡河を前にはじめて、兵に目的を明かした。だが、光秀よ、備中にいる秀吉を忘れず、防備を厳重にせよというのだ。光秀はこの同僚秀吉に敗れた。
仏の嘘を方便といい、武士の嘘を武略という。百姓は可愛いことである。
明智光秀(老人雑話)
「老人雑話」の著者・江村専斎(京都の儒医者)は「名言なり」という。
仏における嘘は衆生を教化・救済するために用いられ、武士は敵を攻略するために必要なものであるとする。そこへ行くと農民のつく嘘は可愛いものだというのだ。
農民のつく嘘も本当はよくないに決まっている。しかしこれを「可愛い」と言い切る光秀には、領主として農民を慈しむ気持ちが強かったといえる。
この光秀の名言の核はいうまでもなく、「武士の嘘を武略」といった点にある。
武田信玄の弟である信繁の「家訓」の第五条にも、こんな言葉が出ている。
「いかなる場合も、嘘をついてはならぬ。神託にいう。正直は一時的には認められなくても、必ず報われる。これに関連していうと、武略は時と場合によって、嘘を用いることもある」
光秀は誠実な武将であった。そのためにかえって、信長から疎んじられると、それを強く気に掛けて、謀反に走ってしまったといえる。光秀謀反の原因はさまざまにいわれるとおり、理由も複合的なものであろう。
しかしその一つに、信長が光秀についた嘘が、光秀の憎しみをかったともいわれる。
光秀の丹波攻略に大きく立ちふさがったのが八上城の波多野秀治であった。光秀は他の信長の部将たちの協力を得て、兵糧攻めにし、一年二カ月が過ぎた。城内は食糧が尽きて、牛馬までも食べる状況になった。そこで光秀は和議による開城を申し入れた。しかし相手は信長を信用できないと拒否した。
光秀は信長から、和議に応じれば秀治らを許すとの約束を取り付ける。そこで老いた自分の母を八上城に人質として差し出すことで、秀治との和議を成立させた。
秀治はやっとこれに応じ、秀治など波多野三兄弟は城を出て、
安土城にいた信長のもとに挨拶に出向いた。
ところが信長は、この三人を捕らえると、城下で磔にして殺してしまったのである。怒った八上城の家臣たちは、光秀の母を報復の磔に処して殺した。このことで光秀は信長を恨むようになった。
光秀は丹波を攻略する際、なるべく戦うことなく、地元武将らに和議を持ち掛け、懐柔して味方につけた。
時には危険を顧みず、自ら敵城の前まで出向いて説得することもあった。実は光秀は武略においても、嘘を用いるのが嫌いな男だったのである。
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